研究紹介 超音波・マイクロ波 プロセッシング

超音波やマイクロ波は、非常に身近なエネルギーです。超音波は、メガネ洗浄機や非破壊検査、マイクロ波は電子レンジや携帯電話の電波などで使用されています。これらのエネルギーは、化学反応において特異な作用を誘発します。例えば、粉末を溶媒に溶かす場合に超音波を照射すれば、短時間で溶解し、電子レンジを用いれば、水はガスコンロよりも速く沸騰させることができるのは誰もが知っている事実です。化学反応場における超音波やマイクロ波の照射は、反応の低温・短時間化に有効であり、多くの研究が行われています。

超音波やマイクロ波は、従来の化学反応の低温化や短時間化に有効ですが、これは反応場に特有な様々な作用によるものです。超音波は、溶液中に発生する超音波キャビテーションによる高温・高圧のホットスポット・衝撃波に起因する作用により、有機物の合成や分解や金属イオンの還元等、様々な反応が報告されています。マイクロ波も極性物質の直接加熱による、急速加熱・選択加熱・均一加熱に起因する作用によって、材料の均一化や高収率合成等、様々な反応が報告されています。これまでの超音波・マイクロ波反応場は、従来化学合成のエネルギー源、加熱手段の代替として用いられてきました。

我々の研究グループでは、超音波・マイクロ波プロセッシングに「固液系」概念を導入し、新材料・新規プロセッシング開発を行っています。

固液系超音波・マイクロ波反応場

従来の化学反応は、液相・固相・気相の単相で行われてきました。液相系では、溶媒に溶解した状態からの生成物固体の析出、固相では化学輸送を経由した合成、気相では、ガスからの生成物固体の析出など、従来手法では、相を経由した固体材料の合成はあっても、原料系に固体と液体が存在する「固液系」を利用した反応系は、ありませんでした。特に液相系においては、固体溶質が溶媒に溶けた均一液相系、異なる2種類の溶媒が混ざり合った会合状態やエマルション状態のような不均一液相系が材料合成としてほとんどでした。

従来の液相における材料合成では、溶媒に溶解する原料を大前提としているために、材料選択性が限られるだけでなく、様々な問題があります。

例えば、セラミックスや金属粒子を合成する溶媒に溶ける金属塩は、硝酸塩や硫酸塩、塩化物等、環境汚染物質を含む場合がほとんどです。また有機塩の場合も、これらの無機塩から合成される場合がほとんどです。これらの原料は、大気汚染物質である廃棄物が発生するため、材料合成には洗浄と廃棄物処理が必然的に必要になります。

原料が溶媒に溶解しない物質であれば、原料選択性の広がりによりプロセッシングの枠が格段に広がります。例えば、金属原子と酸素原子で構成された安価な酸化物が原料に利用できれば、環境負荷とコストの低減できる可能性があります。

「固液系」は、超音波やマイクロ波の特徴を活かすのに非常に適した反応系です。超音波は、固液系である粒子分散系では特に有効です。超音波が溶媒中に粒子を攪拌・分散させるだけでなく、粒子表面を洗浄し反応を活性化させます。固液超音波系ではソノケミカル効果に代表される化学的作用だけでなく、攪拌・分散・衝撃・洗浄等の付加的な物理的作用が期待できます。

マイクロ波も固液系では、液相では見られない付加的な特徴があります。溶媒中にある固体が存在することによる、加熱のより急速化や溶媒の沸点以上に加熱が可能なスーパーヒーティング現象などです。

これらの「固液系」において超音波とマイクロ波に共通している現象は、過飽和度を積極的に制御した材料合成が可能なことにあります。従来の液相系では、原料溶質の溶媒に対する溶解度に依存した合成法であり、ナノ材料の合成には低濃度合成が必要です。

「固液系」では、溶解度に依存しないナノ材料合成が可能であり、超音波のホットスポットやマイクロ波の急速加熱による過飽和度の積極的な制御により、高濃度合成、高濃度でもナノ材料の高効率合成が可能になります。

このような「超音波」「マイクロ波」を中心とした「固液系」で様々な特徴を持つナノ材料の合成とそのプロセッシング開発を行っています。