東北大学 東北大学 大学院工学研究科・工学部 化学・バイオ系

九葉会 九葉会 KUYOKAI

会長挨拶

令和6年
服部徹太郎(昭和62年応化卒,天野研)

九葉会会員の皆様には益々ご健勝のこととお慶び申し上げます。2024年4月より,滝澤博胤先生の後を受け,九葉会会長を務めさせていただくことになりました。どうぞよろしくお願い致します。

2024年は,本学が国際卓越研究大学の第一号に認定された記念すべき年となりました。国際卓越研究大学は,世界トップレベルの研究大学を実現するために,応募大学の変革のビジョンとコミットメントの評価により採択され,政府が創設した10兆円規模の大学ファンドの運用益から支援を受けて実施されます。中間審査を経ながら3期25年もの長期に渡る計画となっており,当初の方針の良し悪しが,未来を担う若手教員にとって助けともなれば,負荷ともなり得ます。折しも,私は工学研究科の副研究科長(教育担当)を拝命しており,その責任の重さを痛感しております。

国際卓越研究大学の教育に関する主要なミッションの一つに,博士号取得者数を現在の2.5倍にまで引き上げる目標があります。文部科学省も本年3月に発表した「博士人材活躍プラン」において,2040年度までに博士号取得者を2020年度比で約3倍に引き上げることを掲げており,博士課程の大増員時代が到来します。これを修士の博士課程への進学率に単純に換算すると,現状の15%から37.5%に増加することになります。アカデミアの定員増は期待できないため,企業で活躍できる人材の育成が不可欠です。しかし,企業においても研究職の需要は限られており,安易な博士号取得者増は,かつてのポスドク1万人計画の失敗の轍を踏む懸念があります。

工学研究科の修了生を対象としたアンケート調査によると,民間企業に就職した修士が様々なキャリアパスを辿る一方で,博士は研究職に長く留まる傾向が見られます。高度な専門性を身につけた結果,研究職を安住の地と感じ,キャリアを変えることに躊躇が生じている可能性があります。これまでの博士課程の教育が専門に偏重していたことも一因でしょう。一方で,技術に根差したアイディアを着想するには,専門を究めた経験が不可欠です。研究職を通して自社技術の真の価値(独自性・優位性・発展性)を評価できるようになった博士こそ,将来的に経営層に加わることができれば,研究から生まれた新しい価値を世界を変えるイノベーションに発展させる役割を担うことができるのではないでしょうか。そのような未来を見据え,そのための素養を養う教育を,専攻や研究室の専門教育に加えて実施する新しいカリキュラムについて,研究科全体で議論しているところです。皆様からのご助言,ご協力を賜りますよう,よろしくお願い申し上げます。