東北大学 東北大学 大学院工学研究科・工学部 化学・バイオ系

化バイについてわかる10のコト

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未来につながる豊かな知識

梅津 光央
バイオ工学コース
AIを使って、
すごいタンパク質を設計する
梅津 光央先生
東北大学大学院工学研究科 バイオ工学専攻
生体機能化学講座 タンパク質工学分野

タンパク質は食べ物などでとても身近に感じている物質ではないでしょうか?実はヒトの体の中にあるタンパク質は1000個以上ものアミノ酸が結合して配列していてできていますが、遺伝子がもつ「情報」を初めて「機能」に変えてくれる分子にあるため、「生命を理解する鍵である」と言われています。私たち人間が個々で違うのは遺伝子が違うからです。子供はお父さんとお母さんから、それぞれのDNAを引き継ぎ少しずつ変化して、このDNAの変化がタンパク質の機能の違いに現れて、個々の違う人間になるわけです。

タンパク質は20種類のアミノ酸で構成されていて、配列や長さを変えることで機能が変化するのですが、この組み合わせや長さには無限のパターンが存在します。私たちの研究室ではタンパク質を自由に設計して、高い機能を持ったタンパク質をつくることを目指しています。

最適なタンパク質を設計するにはどうしたらいいでしょうか?無限のパターンがあるということは無限の可能性があるわけですが、問題となるのは膨大な組み合わせが存在し、ある程度の仮説を立てたとしても膨大な実験量とデータと向き合わなくてはなりません。そこで、革新知能統合研究センター(API)において東京大学と産業技術総合研究所の先生と一緒に研究をしたことをきっかけに、私たちは5年ほど前から人工知能(AI)を活用したタンパク質の研究を始めました。
一定のタンパク質の機能をAIに学習させることで無数にある実験データから、求める機能を持つ可能性が高いタンパク質の設計を導き出してくれます。

AIにタンパク質の配列と機能のデータを学習してもらい、私たちが求める機能を持ったタンパク質に近い構成のタンパク質をAIに見つけ出してもらいます。そうすることで、ターゲットにしている機能を持つタンパク質のアミノ酸を少しずつ組み替えていくと求めている機能を持つタンパク質を作り出せるかもしれません。ターゲットにしているタンパク質をまずはAIに見つけてもらうことで人間が実験し検証する回数を減らすことができます。効率的な研究をするためには、より多くのデータを回収して、そこからどう組み替え、応用するが重要です。もちろん、求めるタンパク質を導き出すには、これまでの経験と勘も重要となります。


タンパク質の機能を抽出するには、さまざまな方法がありますが、論理的に考えるだけでなく、実際に起こる現象を再現することも大切だと思っています。例えば、自然界で起こる現象を試験官の中で再現し、”選択圧”をかけます。これは生物の進化において生じてきた現象を再現しているため、「生き残る」チカラを持った物質を見つけ出すことができます。そしてそこから得たデータもAIに学習させることで、よりAIが賢くなり、ルールを見つけやすくなるのです。

私たちは今、がん細胞にだけ作用する薬として機能するタンパク質の設計を目指しています。薬には様々な種類があり、抗がん剤の多くは正常な細胞にも同時に作用してしまい、副作用として、とても辛い症状が出てしまうものがあります。私たちが目指すのはがん細胞にくっつきながら、周囲にいるT細胞と呼ばれる免疫細胞に作用する薬です。がん細胞をやっつけるのではなく、周囲にある免疫細胞を活性化することでがんの治療を目指し、がん細胞と結合する「手」とT細胞を活性化させる二つの機能を持つタンパク質の設計を研究しています。

医薬品が承認され、使えるようになるまでの道のりは長く、膨大な研究データと実験を繰り返して安全性を確立しなくてはなりません。このため、多くのコストがかかってしまうのですが、どんなによい薬であっても普通の人が買えないくらい高額になってしまっては一部の人しか使うことができなくなってしまいます。今後薬の開発にAIを活用することにより、少しでも時間短縮、コストカットにつなげ、より多くの人が使いやすい薬の開発に寄与できればと思っております。


無限の可能性を持つタンパク質にはまだまだわからないことがたくさんありますが、AIを使って最適なタンパク質設計を見出す方法は私たちだけではなく、より多くの研究者、業界に活用できることがわかり、東北大学発ベンチャー企業として、株式会社レボルカ (RevolKa)を立ち上げました。社名のRevolKaはラテン語の「進化(evolutio)」と、北海道の先住民族の言葉であるアイヌ語の「育てる(reska)」からとった造語です。

大学や研究室だけではできないことでも企業として推進できることが多くあります。起業は大学での研究や教育とは全く違う側面と困難がありますが、私たち研究者にとって、大きな挑戦でもあり、タンパク質の探求への新たな冒険だと思っています。

メッセージ

梅津先生からのメッセージ

研究は、今ある知識をフル活用して、「仮説」を立て「実験」を遂行し、予測に反した発見に「驚き」、その発見を解釈できる「新たな仮説」を立てることを繰り返していきます。この繰り返しの中で、仮説が「確証=仮説の実証」に変わるとき、研究者として心震えます。
答えがないものに挑戦するわけですから、仮説が「確証」に変わることはないかもしれません。だからこそ、「確証」との出会った時、そしてその「確証」に世の中を変える可能性を感じるとき、心が震えます。
私たちの研究室で設計しているのはタンパク質ですが、人生やキャリアも設計できる人間になってほしいと思っています。そのためにも研究室ではディスカッションの時間を大事にしており、いろいろな人の考え方に触れながら自分の未来像を柔軟に想像できるようになってもらえたらなと思っています。高校生の皆さんも、勉強や遊びを通して、いろいろな世界をみて将来を想像し、自分が考えていること・やりたいことがいかに面白く重要なことであるかを時には人に話しながら過ごしてください。