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TEL. 022-795-7274

〒980-8579 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6-6-11 青葉山工学部キャンパス 総合研究棟 6階606号室

研究紹介RESEARCH


 量子力学の父であるエルヴィン・シュレーディンガーが1944年に「生命とは何か(What is life ?)」を執筆し、物理的法則の延長上に生物を理解する概念を提案しました。これが分子生物学の始まりと言われています。その後、遺伝子工学が発展し、遺伝子の機能表現型である蛋白質のアミノ酸配列を改変できるようになった1980年代に年にProtein Engineering (蛋白質工学)が提唱されました。現在では、大腸菌などの宿主細胞に目的遺伝子を導入することによって組換え蛋白質を大量に生産することができ、特定位置の残基を自在に変異させることや自分の好きなアミノ酸配列を持つ蛋白質を合成することも出来るようになってきました。さらに、分子量が約1000万のタンパク質複合体でも立体構造を原子レベルで描写し構造的視点から蛋白質の機能を詳細に記述することが可能になりつつあり、年間1万件程度のペースで構造と機能のデータが蓄積され続けています。蛋白質は、他の有機・無機材料と比較すると構造安定性は劣ります。しかし、このデータベースに示されるように、構造・機能の多様性と特異性の面では他素材を凌駕している分子です。私達は、この構造・機能の多様性と特異性を生かした蛋白質の利用価値を探る研究をしています。
 蛋白質は、アミノ酸が脱水縮合したポリマーであり、その配列情報に従って折りたたまれて3次構造を持つドメインを形成し、さらに、それらドメインが相互作用して、4次構造を形成します。蛋白質を機能の面で考えると、ドメインの形成が機能発現の最小単位になっていることが多く、構造・機能としても最もデータが蓄積されている単位(モジュール)はドメインです。私達は、この現在蓄積されているドメイン単位の構造・情報データベースを膨大なモジュールライブラリーと捉え、様々なモジュールを融合させる積木細工的発想で、利用目的に特化して高機能なスマート蛋白質を設計する方法論を現在研究しています。この方法論を基本プラットフォーム技術として、医療・環境・ナノテク分野に貢献できる蛋白質の設計を行っています。

医療: 腫瘍がんを治療・イメージングするスマート抗体

 抗体分子は、私達の体で免疫を司っている蛋白質の1つで、特定の分子にのみ結合できる機能やリンパ球にシグナルを送ったりする機能があります。現在、この抗体を用いてがん細胞だけを殺傷する分子標的薬の開発が進められてます。一般的な抗体は、Y字型をした形をしていますが、特定の分子に結合する機能は、二股に分かれている方の先端にある可変領域断片(Fv)が持ち、リンパ球にシグナルを送る機能は逆側の断片(Fc)が持っています。この抗体のFv側ががん細胞表面に優位に存在する分子に特異的結合する機能を持てば、がん細胞とリンパ球を近接させることができるだけでなく、Fcからのシグナルによりリンパ球ががん細胞を殺傷する分子を分泌してくれます。私達は、このような抗体分子をドメイン単位で断片化した後、積木細工的に再構築することによって、高機能な分子標的薬を設計することを目指しています。


環境: 高効率にバイオ燃料生産するハイブリッド酵素

 非食物系のバイオマスであるセルロースは、化石燃料と補完的に働く次世代の環境調和型エネルギー資源です。そのセルロースを温和な水溶液中で糖に分解できる酵素(セルラーゼ)は環境低負荷にバイオエタノールを作り出すプロセスに魅力的なアイテムです。しかし、セルロースは水に不溶なため、その分解は酵素を用いても効率が非常に低く、社会実装のためには機能を飛躍的に向上させたセルラーゼの開発が必要です。私達は、セルラーゼ独特の構造に着目し、ナノ蔬菜も利用することによって、非常に高機能はハイブリット酵素の提案を行っています。
 セルラーゼは、現在までに1017種報告されており、その60%はセルロール中の、β-1,4 グルコシド結合を加水分解する触媒ドメインのみからなっています。しかし、他の40%は、より効率的にセルロース分解をより効率的に行うために、触媒ドメインにセルロース表面に吸着できる結合ドメインを融合してしているものや、セルロース結合ドメインを持つ巨大な骨格蛋白質に機能の異なった複数の触媒ドメインが集積して巨大複合体を形成しているものがあります。そこで我々は、触媒ドメインとセルロース結合ドメインを独立に発現調製し、ナノ粒子を核として3次元的にヘテロクラスター化することによって、組換え蛋白質の製造コストを増加させることなくセルロソーム構造を編成できるハイブリッドナノセルロソームの開発を行っています。



ナノテク: 自動で組みあがるナノデバイス

 蛋白質が表現する重要な機能の1つに「分子認識」があります。例えば、酵素は基質特異性があって特定の構造を持つ有機分子に結合して、その分子の化学反応を手助けします。また、抗体分子は、体内で様々な分子を対象として、特定の分子にだけ結合するような機能を持つことができ、疾病解明や医薬応用へ向けた応用がなされています。私達は、この抗体が「分子を認識」する機能は分子のみにとどまらず、無機材料のような表面構造も識別して、そこへ吸着できると考えてきました。その結果、これまでに、金属やセラミックス表面を識別して結合できる抗体分子を取得し、その抗体を用いた無機ナノ粒子や蛋白質のパターニングやナノ粒子のアセンブリに成功してきました。この技術は、無機・有機・バイオ分野のナノ素材を積木のように積み上げることによって特定の機能を持つナノデバイスを作製することを可能にすると考えています。


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