RESEARCH 研究内容
私たちの暮らしは、金属・半導体・高分子・セラミックスなど、身の回りにある様々な材料によって支えられています。これら材料は化学プロセスによって生み出されています。実験室レベルで創製された材料を社会実装するためには、“工業レベル”での製造が必要となります。そのためには、装置やプロセスの大型化や高速化が求められますが、結果として実験室とは異なる現象が起こる場合があります。したがって、高品質な材料を効率的に製造するためには、装置やプロセスの中で起こる現象のメカニズムを理解し、これを制御する技術を確立することが重要になります。特に、近年では材料の高機能化を目的にナノ材料や複合材料の研究開発が盛んになっており、より複雑化・ナノサイズ化する材料に対して、ハンドリングする技術が求められています。 また、実際のプロセスには、高温条件あるいは反応性が極めて高い物質など、現象理解のための観察や測定が難しいこともあります。このような場合には、コンピュータシミュレーションを利用することで、装置やプロセスの中の現象を把握することができます。当研究室では、材料製造プロセスを対象とし、各種光学手法による観察・計測、コンピュータを駆使した数値シミュレーションを用いて研究を進めています。装置内の輸送現象をミクロからマクロまでのマルチスケールにわたって理解することで、製品の構造や機能を制御するための材料製造プロセスの設計・最適化を目的に研究を行っています。
ナノフルイド
溶液にナノ粒子を分散させたナノフルイドは、プリンテッドエレクトロニクス用のナノインクなどへの利用が期待されています。当研究室では、表面修飾ナノ粒子を対象として、溶液中におけるナノ粒子の分散・凝集状態を解明し、ナノフルイドの設計指針を提案しています。さらに、塗布乾燥によるナノ粒子構造体の形成メカニズムの解明に挑んでいます。[1] S. Usune et al., Journal of Chemical Engineering of Japan, 51, 492 (2018).
[2] S. Usune et al., Powder Technology, 343, 113 (2019).
[3] S. Usune et al., Journal of Chemical Engineering of Japan, 52, 680 (2019).
ナノコンポジット材料
高分子とナノ粒子の特性を兼ね備えた複合材料であるナノコンポジット材料の機能は、高分子とナノ粒子の特性に加えて、材料中でのナノ粒子の空間構造にも依存します。当研究室では、塗布乾燥による薄膜製造プロセスを対象として、薄膜の構造形成メカニズムを解明し、プロセス-構造-機能の相関を明らかにすることで、薄膜の機能の制御を目指しています。[1] Y. Liu et al., Journal of Applied Polymer Science, 132, 42760 (2015).
[2] N. Kobayashi et al., Chemical Engineering and Processing - Process Intensification, 155, 108054 (2020).
分子動力学シミュレーションを用いた親和性評価
ナノフルイドおよびナノコンポジット材料では、ナノ粒子(表面修飾含む)と分散媒(溶媒や高分子)との親和性が重要になります。しかし、ナノスケールの親和性を実験的に正確に把握することは難しいです。当研究室では、分子動力学シミュレーションを利用することで、物質間の親和性を定量評価し、ナノスケールの分子構造との相関解明を目指しています。[1] T. Saito et al., The Journal of Chemical Physics, 154, 114703 (2021).
[2] T. Saito et al., AIP Advances, 12, 105206 (2022).
超音波を用いた化学反応プロセス
超音波を活用した化学・工学はソノケミストリーおよびソノプロセスと呼ばれています。液体に超音波を照射すると、キャビテーションと呼ばれる微小な気泡が生成・圧壊し、局所的に高温高圧場および高せん断場が生じます。このような特殊な環境を生かして、化学反応を制御することで、分子量の揃ったポリマーや分散性の高い金属ナノ粒子を製造する技術を開発しています。[1] M. Kubo et al., Ultrasonics Sonochemistry, 49, 310 (2018).
[2] M. Kubo et al., Ultrasonics Sonochemistry, 79, 105752 (2021).