植物二次代謝産物グリコシルトランスフェラーゼ

Plant secondary product glycosyltransferases

図は赤いデージー(ひな菊)のアントシアニンです。

   
  図 赤いデージーのアントシアニン 図 赤色デージー(ひな菊)  

このアントシアニンにはグルコースとマロン酸の他に、非常に珍しいことに、グルクロン酸が結合しています。以前の研究で、このグルクロン酸残基はこのデージーのアントシアニンの発色の安定性に重要な役割を果たしていることが示されています。わたしたちはこのグルクロン酸を転移する酵素に興味を持ちました。

   
  図 赤色デージーのグルクロノシル基転移酵素BpUGATの反応  

その理由は,脊椎動物では,このグルクロノシル基転移酵素(UGAT)の反応は生体異物や疎水性代謝産物の解毒・排出機構であるグルクロン酸抱合として知られるのに対して,植物ではUGATの実体は明らかにされていなかったからです。植物UGATの実体を明らかにすれば初めての例となり,動物酵素との比較生化学に興味がもたれたわけです。

   
  図 SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動によるタンパク質の純度検定  

ところでこうした糖修飾反応は多くの場合、糖ヌクレオチド依存性糖転移酵素(GT)スーパーファミリー,いわゆるGTスーパーファミリーのメンバーにより達成されます。脊椎動物においてグルクロン酸抱合に関わるグルクロノシル基転移酵素群はそのうちのファミリー1に属します。またアントシアニンをはじめとするフラボノイドに糖を転移するGTも同じファミリー1に帰属されています.植物二次代謝産物にはフラボノイド以外にもテルペノイドとかアルカロイドなどがありますが,それらのグリコシル化もほぼ例外なく同じファミリー1の酵素によって達成されることがわかってきましたので、こちらは一括して植物二次代謝産物グリコシルトランスフェラーゼplant secondary product glycosyltransferases(PSPG)と呼ばれています.しかし脊椎動物のUGATとPSPGどうしは,ファミリー内ではかなり遠縁です。そこで、デージーのUGAT(BpUGAT)は脊椎動物のUGATに近縁なのか、PSPGにより近縁なのか,系統的位置づけを明らかにすることを目的として、酵素の単離と遺伝子クローニングに取り組みました。

精製酵素の部分アミノ酸配列に基づいてBpUGATのcDNAを単離し,全塩基配列を決定しました.その塩基配列から推定されるアミノ酸配列は,脊椎動物のグルクロノシル基転移酵素にはほとんど類似性を示しませんでした.この酵素は柑橘類ぶんたんのフラボノイドラムノシル基酵素ともっとも高い類似性を示し,推定アミノ酸配列中にはPSPGに高度に保存されたPSPGボックスと呼ばれる配列が見いだされました.こうしたことから,BpUGATは明らかにPSPGのメンバーであることが分ります.

近隣結合法にて系統樹を作成したところ,BpUGATはやはり脊椎動物のUGATとは遠縁で,PSPG群に属します.PSPGは系統的にはさらにいくつかのクラスターに分かれ,それは植物種や糖供与体特異性ではなく,糖転移の位置特異性や受容体特異性と関係があるように見えます.その中でBpUGATは,既知のクラスターには属さず,系統的にユニークな部分に位置することが分りました.このサブクラスターに属する酵素はいずれもBpUGATのように,フラボノイド配糖体の糖の部分にさらに糖をつける酵素であることから,そのような特異性をもった酵素が新しいクラスターを形成するものと予測されました.

   
  図 GT1ファミリーの系統樹  

これらGT1ファミリーの酵素群のうち,BpUGATをはじめとするPSPG群は植物二次代謝の生合成に関わり,脊椎動物の解毒機構に関わる酵素で,一見,生物学的役割は異なっているように見えます.しかしながら,つきつめて考えますと両酵素群の機能は,本質的には,非常に似通っていると考えられます.すなわち,生体異物であれ代謝産物であれ,それが疎水性である場合には細胞内で蓄積すると不溶化して生体内での恒常性をそこなうものと考えられます.GT1ファミリーの酵素群はそれらをグリコシル化することにより溶解度を高め,動物の場合にはそれを尿中は排泄され,植物の場合にはそれを液胞に蓄積させているものと考えられます.


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