植物アシル基転移酵素ファミリー

BAHD family of plant acyltransferases

 植物二次代謝産物にはアシル基を有するものが少なからず存在します.このアシル基の存在は二次代謝産物の構造の多様性の原因となりうるばかりでなく,その生成,機能,生理活性にも大きな影響を及ぼします.たとえば抗がん剤のタキソールにはアシル基が多数結合しており,この物質の生理活性に必須な役割を果たしています.また末期ガン患者の疼痛の緩和に卓効を示すモルヒネの生合成にはアシル化反応が必須です.花の赤・青・紫の原因となるアントシアニンの構造や色調の多様性は,糖部分に脂肪族アシル基(マロニル基など)あるいは芳香族アシル基が結合することにより増大し,芳香族アシル化は花色の調節(青色化)・安定化に, また脂肪族アシル化は花色の安定化に重要な役割を果たしています.たとえば,リンドウ,サイネリア,チョウマメの青い花に含まれるアントシアニンには芳香族アシル基や脂肪族アシル基が多数結合しており,色素の青色発現や安定性に重要な役割を果たしています.
   
  図 ポリアシル化アントシアニンの例  

 そうしたアシル化の重要性とは裏腹に,アシル化酵素の実体はその単離精製の困難さのために明らかではありませんでした.私たちの研究室では,脂肪族アシル基(マロニル基)をアントシアニンに転移させる酵素群(アントシアニンマロニルトランスフェラーゼ,MaT)やその遺伝子をサルビア,ダリア,キク,サイネリア,バーベナ,ヒメオドリコソウなどの花弁から単離することに相次いで成功し,MaTが新しい植物酵素ファミリー(BAHDファミリー)に属することを明らかにしました.

   
  図 赤いサルビア(A)とその赤色色素サルビアニンの生合成の最後の二段階  

   
  図 サルビア花弁由来のMaTの反応機構  
さらに,得られた酵素群の系統進化的考察から,この酵素ファミリーでは一見系統的に遠縁に見える遺伝子から類似の特異性をもつ遺伝子が進化しうることも明らかにしました.さらに,それまで不明であったこの酵素ファミリーの触媒機構についてサルビア花弁由来のMaTを用いて検討を加え,アシル基供与体,受容体(アントシアニン),酵素から成る三員複合体を経由する一般酸塩基触媒機構を提案し,触媒重要残基も推定しました.
   
  図 キクのMaTホモログの立体構造(リボンモデル)  

さらに最近,キク花弁から遺伝子クローニングにより取得したMaTの結晶構造を明らかにし,BAHDファミリーの酵素としては初の酵素基質複合体の構造を解明しました.


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