バイオマス資源循環

 化石資源に依存しない持続可能型社会の構築に向けて、バイオマス資源の有効利用技術の確立は必要不可欠です。当研究室では、次世代型溶媒として注目されるイオン液体用いてセルロース処理し有用物質を合成するプロセスや、高い分解能力が期待される高温高圧水を用いてタンパク質を処理しアミノ酸を生産するプロセスの構築を目指しています。

1.イオン液体を用いたセルロースやキチンの有効利用技術開発

 今、私たちの生活に欠かすことのできないエネルギーですが、日本のエネルギー自給率は10%に満たないと言われています。21世紀の世界的な脱化石資源の風潮の中で、国内のエネルギー自給率の向上が国力の維持、発展に直結します。この危機に立ち向かうべく、賦存量が豊富な木材の主成分である“セルロース”に着目しました。うまく利用することができれば食料との競合なしに、化石資源からの脱却が期待できます。一方、セルロースの強固な構造により有効利用技術開発が進んでいないのが現状です。そこで当研究室では、イオン液体を用いたセルロースの変換・生成物抽出技術の開発を行っています。イオン液体は水や有機溶媒に溶解しにくい、セルロースを溶解する種が存在し反応に膨大なエネルギーを必要としません。また、再利用可能なため環境に優しい溶媒です。このプロセスによって、セルロース由来のバイオ燃料を生成し、持続可能な社会の実現に貢献します。

 最近では、セルロースで得られた知見をもとに、カニの甲羅などに多く含まれるキチンの加水分解プロセスの構築も検討しています。

2.高温高圧水を用いたタンパク質変換プロセスの開発

 地球温暖化や化石資源枯渇に対する懸念から、バイオマス資源の利用に注目が集まっています。バイオマスは主に脂質、糖質、タンパク質の3つの成分で構成されます。脂質と糖質は化学構造がシンプルで、反応の把握と制御が比較的容易なことから、これらを豊富に含むバイオマス(ex. トウモロコシ、サトウキビ)に関しては既に実用化の段階まで利用が進んでいます。一方タンパク質は20種類のアミノ酸が数百~数万個つらなってできており、複雑な構造を持つことから、タンパク質を豊富に含むバイオマスに関しては高度利用が進んでいません。

 そこで当研究室では、分解能力が非常に高い高温高圧水を用いたタンパク質の分解・変換プロセスの開発を行っています。このプロセスによって、タンパク質の構成単位であるアミノ酸を生産することができます。またアミノ酸の更なる分解によって、燃料や医薬品として利用可能な化合物に変換することも可能です。この技術を確立することで、持続可能な社会の実現に貢献します。

3.低温条件下における5-ヒドロキシメチルフルフラール(5-HMF)合成

 カラメル香の成分である5-ヒドロキシメチルフルフラール(5-HMF)は、バイオ燃料や医薬品等の様々な化学製品の原料となる有望な化合物として、近年注目されています。この5-HMFはフルクトース脱水によって合成できるため、バイオマス廃棄物を有効活用できます。しかし、現在報告されている高収率が得られた合成方法では、再利用が困難な触媒や環境負荷の大きい溶媒を使用しているため、これらに代わるエコ・フレンドリーな合成方法の開発が求められています。

 そこで当研究室では、種々の溶媒環境での5-HMF合成を検討する中、超臨界二酸化炭素(scCO­2)を併用した水熱プロセスに注力しています。無毒なscCO2と水を組み合わせて溶媒とすることで、環境に優しい合成方法を提案します。