有機分子の大きさや性質を精密に識別して効率的に捕集できる固体材料の開発は,分離精製プロセスの簡略化や環境負荷の低減に繋がる重要な課題です。我々は,カリックスアレーン(CA)等のホスト分子が構築するチャネル状の空隙をもたない結晶の性質を利用して,高い選択性と広い適用性を兼ね備えた分離材料を開発しています。例えば,架橋基に硫黄原子を有するチアカリックス[4]アレーン(TCA)の結晶によるアルコール混合液中からのエタノールの高選択的捕捉に成功しています。また,温度や溶媒の極性などの外部因子を利用したゲスト選択性のスイッチングにも挑戦しています。例えば,CAの結晶を用いたクロロフェノール異性体の捕捉においては,ホストの構造を変えずに,o-, m-, p-体に対する選択性を自在にスイッチすることが可能となっています。

レアメタルは様々な先端材料を製造する上で欠かせない物質であるため,それらの分離および回収プロセスの高効率化は重要な課題です。我々は高い選択性を有するホスト分子型レアメタル抽出剤の開発や,環境負荷の低い金属イオン分離法の開発に取り組んでいます。例えば,従来困難であったカリックスアレーンのヒドロキシ基の直接変換法を確立しており,合成した分子が高性能なレアメタル抽出剤として機能することを見出しています。その一例として,ジアミノカリックスアレーンによるパラジウム(II),白金(II)イオンの選択的抽出と抽出選択性のスイッチングが挙げられます。また,ホスト分子の結晶を用いて,有機溶媒を使用せずに水中から金属イオンを選択的に捕捉する手法の開発にも挑戦しており,既に,カリックスアレーンジホスホン酸から調製したアンモニウム塩結晶による希土類イオンの選択的捕捉に成功しています。

有機ELディスプレイは高コントラストで美しい映像が得られることから,近年ではスマートフォンやテレビに搭載されています。我々は,発光効率の向上と高精細な(高色純度な)発光色の実現を目指し,熱活性化遅延蛍光(TADF)材料の開発に取り組んでいます。TADF材料は有機EL内で生じる一重項励起子と三重項励起子のどちらも蛍光発光として利用できる発光材料です。例えば,30 nm以下の発光半値幅を示す高色純度な深青色TADF材料として,トリフェニルボランのフェニル基オルト位どうしを窒素原子で架橋した化合物の合成に成功しています。この他にも,量子化学計算や有機合成化学を駆使することで新たなTADF材料の開発に挑戦しています。

シンチレータは,放射線(X線やγ線など)との相互作用により発光する材料であり,光センサなどの検出器と組み合わせて使用されます。放射線を検出・可視化可能なことから,高エネルギー物理学,X線CTなどの医療分野,セキュリティ検査など幅広い分野で使用されています。プラスチックシンチレータは,ポリマーに有機発光分子を加えた材料であり,従来の無機シンチレータに代わる次世代のシンチレータとして期待されています。我々は,高効率な有機発光分子の設計・合成をはじめとして,プラスチックシンチレータの開発を目指して研究に取り組んでいます。

リチウムイオン二次電池は,充放電が可能な二次電池として電気自動車やスマートフォン,電子機器などに幅広く使用されています。近年,持続可能なエネルギーの普及の観点から,次世代電池として従来の液体電解質を固体電解質に置き換えた全固体電池が高い注目を浴びています。固体電解質の性能は電池の性能を大きく左右することから,無機材料やポリマー材料,有機多孔性材料などを用いた様々な固体電解質が世界中で盛んに研究されています。我々は,新たな材料の可能性として有機低分子を用いた固体電解質の開発に挑戦しています。

ホウ素中性子線捕捉療法(BNCT)は,中性子と核反応が非常に起こりやすいホウ素(10B)薬剤を腫瘍細胞にあらかじめ集積させ,中性子線を照射して核反応により生じる重荷電粒子(α粒子,Li粒子)で腫瘍細胞を破壊する治療法です。生じる粒子の飛程が細胞径とほぼ同じであることから,正常な細胞を傷つけない低侵襲な次世代治療法として期待されています。現在,ホウ素薬剤として,L-フェニルアラニンの誘導体BPAやホウ素クラスターBSHが臨床利用されています。我々は,これらのホウ素薬剤よりも腫瘍細胞に集まりやすく,かつ光機能を付与した新たなホウ素薬剤の開発に挑戦しています。

芳香族化合物やアルケンにハロゲンなどの脱離基を導入することなく,C-H結合を直接切断して他の官能基に変換する反応は,環境負荷の低い合成手法として注目されています。当研究室では,これまでに,シリルカチオンで二酸化炭素を活性化し,芳香族C-H結合を直接カルボキシル化する反応や,ヘテロ芳香族化合物やアルケンのC-H結合を反応系中で切断してアルミニウムに変換して二酸化炭素でカルボキシル化(炭酸化)する反応を開発しています。さらに,後者の手法を展開して,アルケンの求電子反応を付加ではなく置換反応へと導く手法も開発しています(この研究は,田中講師が大井研で継続しています)。現在は,金属ポルフィリン錯体の特異な配位環境を利用して,アルケンのC-H結合を触媒的に官能基化する反応に挑戦しています。

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