目的
-
我々の研究室では,均一系遷移金属錯体触媒を用いた有機合成反応に関する研究を行
っています.二酸化炭素,一酸化炭素などの小分子を活性化し,有用物質へ変換するた
めの反応の開発や,天然物,生理活性物質などの精密有機合成を指向し,金属の特性を
活かした新しい触媒的有機合成反応の開発を行っています.
概要
- 遷移金属原子に様々な有機分子・原子団(配位子といいます)が配位結合して形成さ
れる有機遷移金属錯体は,その結合の特異性,立体構造の多様性などから,触媒,酵素
モデル,あるいは機能分子として作用することが期待されます.
有機遷移金属錯体の反応例を模式的に下の図に示しました.金属原子をM,配位子をL で表しています.金属と配位子の組み合わせは無限と言って良いほどあり,これにより, 様々な性質を持った有機遷移金属錯体をつくることが出来ます.ここへ有機分子Aが近づ くと,Aは配位子として金属に配位します.同じように別の有機分子Bも金属に配位します. この時,配位により近づいたAとBの分子は,金属の力も借りて新しい結合をつくります. そして新しい有機分子A-Bができます.通常,ただ混ぜ合わせただけでは決して反応しな い分子も,このような有機遷移金属錯体の作用によって反応させることができます.さら に,有機分子A-Bが金属から離れると,金属錯体は元の形(ML2)に戻りますから,再び 新しい分子A,Bと反応することができます.このような働きをする分子は触媒と呼ばれ, 有機遷移金属錯体の大きな特長となっています.

主要研究テーマ
- 芳香族化合物の直接カップリング反応の開発
-
芳香族化合物が連結したビアリール構造は,医薬品や機能性分子によく見られる構造単位です.
ビアリール骨格を構築する反応はカップリング反応と呼ばれ,20世紀後半に有用な反応が次々と
開発されました.また,1990年代からはC-H結合を起点とする反応が盛んに開発されています.
このようなカップリングにはPd触媒がよく用いられますが,当研究室ではRu触媒に着目しています.
Ru錯体,配位子,塩基,添加剤を組み合わせることにより配位性官能基を誘導基とする芳香族化合物の
直接カップリング反応の開発に取り組んでいます.
- 有機ケイ素試薬を用いるカップリング反応の開発
-
遷移金属触媒によるカップリング反応では,有機金属試薬として有機マグネシウム,有機亜鉛,
有機スズ,有機ホウ素がよく用いられますが,有機ケイ素はこれらに比べるとあまり利用されて
いません.有機ケイ素は安定であるがゆえに反応性が低く,フッ素アニオン等を添加して
トランスメタル化を活性化する必要があります.また,ケイ素上の置換基には通常ヘテロ原子が
必要です.このような有機ケイ素化合物は簡便に合成することが困難です.それに対し,当研究室
では,入手容易なアリールトリメチルシランの求電子的トランスメタル化を鍵とするカップリング反応
の開発に取り組んでいます.
- アルケンの求電子置換反応の開発
-
Friedel-Crafts反応をはじめとする求電子置換反応は,芳香族化合物では容易に進行しますが,
アルケンでは分解や重合が優先するため困難です.これは,求電子活性種が付加して生じるカチオン
中間体からのプロトンの脱離が,芳香族では芳香族性の回復が駆動力となって自発的には起こるのに対し,
アルケンでは起こりにくいためです.これに対し,当研究室では,Lewis酸や求電子活性種と共存
できる適切なかさ高さと塩基性をもつ塩基でカチオン中間体からプロトンを引き抜くことによるアルケンの
求電子置換反応の開発に取り組んでいます.