研究内容 (Research)

研究内容

第4章 膜タンパク質の試験管内合成技術の開発と膜タンパク質形成メカニズム
(無細胞系(試験管内)転写・翻訳・膜組込み法を用いた解析)

膜タンパク質合成工学 膜タンパク質の試験管内合成技術の開発

無細胞系を用いた膜タンパク質の人工合成系の開発

現在市販されている医薬の約60%のターゲットは膜タンパク質であり、今後も創薬研究における膜タンパク質ニーズの増大が見込まれています。複雑な高分子であるタンパク質を化学合成する方法は完全には確立していないことから、現在は主に目的タンパク質遺伝子を導入した遺伝子組換え生物からタンパク質を抽出・精製する方法が用いられており、水溶性タンパク質においては大変有効です。しかし、膜タンパク質においては、 ①膜タンパク質は比較的細胞毒性を持つことが多く、宿主自体の増殖が抑制される、②宿主によっては異種発現となり本来の膜タンパク質形成装置を持たないことから正規の構造を形成できないことがある、③水に難溶性であり精製が難しく、本来の活性を持つには膜に埋まっている必要がある、といった点で遺伝子組換え生物による生産が困難なことがあります。
 上記の困難さを克服する膜タンパク質の新しい入手方法として注目されるのが、遺伝子組換え生物を利用しない、無細胞タンパク質合成システムを利用した試験管内合成です。(株)島津製作所によって昆虫培養細胞由来の無細胞タンパク質合成システムに同細胞由来の精製小胞体膜をカップリングする方法が開発されました。本研究室は、試験管内で膜タンパク質を合成する技術の確立をめざした共同研究を進めています。昆虫無細胞系は最も新しい無細胞タンパク質合成システムの一つであり、カイコ近縁種ヨトウガ幼虫由来の不死化培養細胞から、細胞質成分(タンパク質合成に必要な成分)と小胞体膜(膜タンパク質合成に必要な成分)を抽出しカップリングです。従来から利用され、また商品化されているウサギ血液系+イヌ膵臓小胞体膜を用いた合成系にかわる可能性がある無細胞系として期待されます。無細胞系では組換え系では難しい生体外分子が導入された人工タンパク質の作製も可能です。生物には存在しない蛍光色素などの人工的な官能基をもつアミノ酸(非天然アミノ酸)を埋め込んだ人工タンパク質も合成することができます。この人工タンパク質作製技術は、高機能化したデザイン膜タンパク質の生産や膜タンパク質相互作用の検証に利用可能であり、医薬開発や環境汚染物質センサーへの応用利用も期待されています。

膜タンパク質挿入メカニズムの解明

SecY/Sec1複合体とGET/TRC複合体による生体膜へ挿入される膜タンパク質
 
イオンチャネルに内在する膜電位センサーの形成

生体内のタンパク質は、適切な構造を形成した状態で適切な場所に配置されることによって、生体内で必要な機能を発揮することができます。全ての生物の細胞は細胞膜に包まれており、細胞膜には情報や物質を外界とやり取りするめの様々な膜タンパク質が埋め込まれています。膜タンパク質が正しく膜へ組込まれ機能するためには、小胞体膜への標的化、タンパク質膜透過チャネル(トランスロコン)を介した折りたたみ、トランスロコンから脂質二重膜への放出の過程を経なければなりません。脂質二重膜は疎水的な環境ですが、膜タンパク質の膜貫通部位には親水的なものも存在します。親水的な膜貫通部位は、どのようにして生体膜へ組込まれるのでしょうか?本分野では、試験管内タンパク質合成系を利用して膜タンパク質の合成を途中でストップさせたり、様々なタンパク質との融合タンパク質を用いたりする方法によって、親水的といったような特殊な膜貫通部位(膜電位センサーやイオン選択孔)が構造形成をしていく過程を解明しています。
  真核生物の小胞体膜には少なくとも2種類の膜タンパク質形成装置が存在しています。一つはトランスロコン(SecY/Sec61複合体)であり、もう一つはGuided Entry of TA-protein /Transmembrane domain Recognition Complex複合体(GET/TRC複合体)です。私たちは、これら二種類の膜タンパク質形成に関する研究を行っています。細 胞質に存在する全てのマルチスパン膜タンパク質は、翻訳と同時に小胞体膜へ組込まれた後に、細胞内小胞輸送によって細胞膜に運ばれることによって形成されます。すなわち、小胞体膜の組込みメカニズムを解明することによって、マルチスパン膜タンパク質が形成される過程を解明することができます。本研究室では、すでに植物および昆虫由来のカリウムチャネル(マルチスパン膜タンパク質)の構造形成過程を解明しました。植物由来カリウムチャネルの膜電位センサー部位の場合は、静電相互作用の補助によって組込まれました。昆虫由来カリウムチャネルは多くの場合、合成と同時に膜へ組込まれますが、植物カリウムチャネルと共通の組込み機構によって、正常な組込みが起こる効率を上げていることが分かりました。
  マルチスパン膜タンパクタンパク質よりも少ない数存在しているTail-anchored protein(TAタンパク質)は、その名の通りC末端領域に膜貫通部位を1つ有する膜タンパク質で、そのN末端領域にはTAタンパク質の大部分を占める細胞質ドメインが存在します。TAタンパク質の膜組込みには、GET/TRC複合体依存型と非依存型の二種類の経路が存在し、GET/TRC複合体依存的に組込まれるTAタンパク質は、細胞質中のリボソームで全長が合成された後に標的化因子である2量体Get3とGet3-TAタンパク質複合体を形成し、小胞体膜上のGet1/2受容体に移行して膜組込みすると考えられています。GET/TRC複合体依存的に組込まれるタイプのTAタンパク質の場合、膜貫通領域周辺のアミノ酸の電荷数に依存して膜組込み効率が変化することから、この電荷アミノ酸がGet3/TRC40-TAタンパク質複合体形成や膜挿入に影響を与えることが予測されます。本組込み系の研究の歴史は、マルチスパン型と比較して浅く、TAタンパク質の形成過程の解明は膜タンパク質の成り立ちをさらに深めることになります。

 

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