化学B「化学熱力学」補足と配付資料随時更新配付資料,解答例は要パスワード

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環境科学研究科 壹岐 伸彦


10月3日 第1回目 イントロダクション (80名出席) (配付資料前半後半注,重い!

アナウンス:2単位の授業1回あたり4時間の予習復習が必要(シラバス記載).自習を強く希望する.



10月10日 第2回目 熱力学第一法則 (77名出席) 配付資料(表1-4,レポート課題) 解答例

「レポートに関して」

概してよくできている.ただし,途中まで計算が合っていても,最後の数値で桁を間違っているケースが多々あり,もったいない.たとえば1.2はQ=-123Jが正答だが,Q=-1.23×105Jなどのミス.おそらくこれはmmolのはじめのmを見落としていたからと思われる.これは「ミリ」であり,10-3を表す.

アナウンス:



10月17日 第3回目 エントロピーの定義 (79名出席) 配付資料 解答例

「熱容量について」

本日の授業,エントロピーが状態量だということ,お解りいただけたでしょうか.授業後,質問を受けました.d'Q = CxdTのCxです.これは第一回目の授業で取り扱いましたが,あっさり流した(スライド一枚)ので印象になかったのでしょう.今回の練習問題にも定積モル比熱Cv,mという形で登場します.テキスト1-4項(p.5-)の復習をお願いします.次回はもう少しエントロピーの中身について,見ていきたいと考えています.



10月24日 第4回目 エントロピーの定義の応用 (78名出席) 配付資料 解答例

「いろいろなデルタ」

授業も4回目に入り皆さんも進度になれ始めてきた頃だと思う.授業ではなるべく丁寧な説明を心がけている.その反面,教科書の内容に対し授業時間が不足し,進行が遅いように感ぜられるかもしれない.先取りして学習しているごく一部の方には多少退屈かもしれない.これは学生諸君が板書を書き写す合間に考える時間,物理現象を想像する時間を少しなりとも与え,その場で理解できるよう配慮しているためである.補習の意味でも,理解を定着させるためにも教科書を熟読し,練習問題を素材に考えることをおすすめする.

さて本日の授業後の質問では,レポート課題2.3のT-S曲線に関するものが多かったが,解答例を参考にしてほしい.P-V空間では奇妙な形のカルノーサイクルもT-S空間ではものの見事に単純化される点に感動してほしいものだ.

もう一つdS,とΔSの違いについて質問が出た.

dSのdは微分のd,微少量変化のdを表す.無限小の変化と言っていい.

一方ΔSのΔは「差」「差分」を表しある値を持つ.ΔS = Sfinal - Sinitialといった意味を持つ.dSの積分型である.

ついでに∂は偏微分の記号でラウンド.

d'Qのd'は微少量変化であるが不完全微分であるのでプライム(')をつけている.要するに経路に依存し,完全微分ではないのである.d'QをTで除してプライムを消し去った(状態量にした)ところにエントロピーの定義の大きな意義がある.

もう一つ受けた質問は問2.2に関するものである.理想気体の圧縮と加熱に伴うエントロピー変化の計算で,「それぞれの過程を別々に計算して良いか」,という質問である.問には初めと終わりの状態しか与えられていない.途中でどのように圧縮し加熱したか,その過程はわからない.この問題はエントロピーは状態量であるからこそ解ける問題である.それぞれを独立の過程として扱って計算してかまわない.



10月31日 第5回目 様々な系のエントロピー変化 (73名出席) 配付資料 解答例

「過程と仮定」

中国の古典に「覆水盆に返らず」なる言葉がある.容器から水をこぼすと床上のものをぬらしてしまう.これはエントロピーを増加させるプロセスである(ΔS > 0).一旦こぼれた水を元通り容器に戻すにはエネルギーを費やす.「エントロピーを減らす変化はできないか?」これは局所的には可能であるが,その周囲まで系に含めて考えるとやはりΔS > 0となってしまう.

さて宿題の2.4であるが提出されたものの6割が正答を与えている.きちんと仮定を置き,計算過程を述べているものもあり,好感が持てる.さて一方の4割はいくつかの誤りの型に分類できる.以下にその問題点を列挙する.

とにかく,問題が与えられたとき,先ずは次の事項をよく落ち着いて考えるべきである.すなわち

繰り返すがむやみやたらに式を適用してはならない



11月7日 第6回目 熱力学第二法則 (73名出席) 配付資料 解答例

宿題に関するコメント

2.5 意外にといっては失礼だがよく調べられている.大学祭をはさんでのレポート作成だったが,この問いに関してよくできている.ファンデルワールス気体は分子間引力を考慮しており,これが内部エネルギーへ関与することが式によって示される.

2.6 こちらは残念ながら正答が少なかった(提出総数72件中,正答は13件).間違いの半数は「部屋のエントロピー変化はない」と都合よく仮定している.問題が仮定しているのは室温の変化だけである.氷(水)のエントロピー増大から部屋のエントロピー減少を差し引いてもΔS > 0となることから,これは自発変化である.逆の過程は放って置いても起きない.



11月14日 第7回目 熱力学関数 (73名出席) 配付資料 解答例

 今回の授業では新しい熱力学関数H, A, Gを導入した.いずれも状態関数であり,全微分可能である.ある系のエネルギーを表す場合,適した関数を用いると表現がすっきりする.前回課題に出した3.2ゴムバンドの系はAを用いると表現が簡単になる.

第一法則とエントロピーの定義より

dU = TdS + Xdl

一方A = U - TSより

dA = dU - TdS - SdT = -SdT + Xdl

Aは状態量で全微分できるから

-(∂S/∂l)T = (∂X/∂T)l

これはMaxwellの式に相当するもので,3.2(b)で必要とする式がAを使用することで簡単に導かれたということになる.

さらに,定温条件では

dA = Xdl

∴ (∂A/∂l)T = X

となる.ゴムを伸ばす変化を考えるとX>0となり張力が発生する.この時dA > 0であり,ゴムは自発的に伸びることはない.自発変化の方向は逆の過程すなわち縮む方向である.

 なお課題3.2は教科書のp.49からの説明を題材にしているためか,8割近い出来であった.課題3.1の解については式(4-32)の導出として教科書に登場する.

 次回は熱力学関数から様々の関係式を導き出す.



11月21日 第8回目 熱力学関数の相互関係 (77名出席) 配付資料 解答例

予定がびっしりで解答の分析が遅れた(11月22記).

4.1 提出された解答のうち7割が正しく計算していた.ところがその半数が気体定数Rを残した形で計算を終えている.たとえば

ΔU = 112.5R

という具合だ.どこかで「定数は記号のまま残しておいても構わない」というような指導を受けたのだろうか.それとも計算機がないか,計算する気がないか.若者がこれでは困る.これは正しい表記ではない.なぜなら右辺と左辺の次元が異なるからだ.定数の何倍,という形で物理量を表すのは下記のような時以外は許されない.

CP = (5/2)R

ΔSvap = 10.5R (Troutonの法則,p. 41)

係数(5/2)や10.5は純粋に数値を表しており無次元である.この時はRの何倍,という表記で構わない.

4.2 (c)について案の定というか全71人のうち48人が白旗をあげている.



11月28日 第9回目 化学ポテンシャルと相平衡 (73名出席) 配付資料 解答例

「よりわかりやすい関数へ」


5.1 体積変化によるエントロピー変化を答えさせる問題である.4割程度の正解率である.これは【例題4-7】を自習した方には簡単だったのではないか.エントロピーの体積依存性はなかなかイメージしにくい,いや,はっきり言えばわからない.これをできるだけわかりやすい関数に変換する必要がある.入手しやすい,ないし測定しやすい量に変換する.そこで威力を発揮するのがMaxwellの関係式である.ここで得られた(∂P/∂T)Vについても同じ考えを適用する.既に得られているデータとしてはαP, κTがある.Eulerの連鎖式を適用して解が得られる.

 なお,これまた勝手に理想気体やファン デア ワールス気体を仮定して解いている例が多々見られた.

教訓:わかりにくい関数はよりわかりやすい関数に変換する.

5.2 変数変換,といわれれば微分による解法が示唆される.求めるべきは曲線の接線の傾きであるから,やはり微分しなければならない.

5.3 内部エネルギーについてのオイラーの関係式の導出をまる写ししている例が多々ある.題意はより一般的な熱力学関数Φについてなので,これは正解ではない.

 もう一つ気になるのはΦを相手に導出しているものの,途中で「両辺をλで微分してλ= 1とおいたら証明すべき式が得られる」としている解が多いことである.【例題4-8】の解そのままであるが,そこはもう少し丁寧に導出してほしい.両辺をλで微分すると示強性の変数については (∂P/∂λ) = 0, (∂T/∂λ) = 0となる.この導出過程が重要だ.

5.4-5.6も引き続き11月21日に学習した内容からの出題となっている.ここが大きな山場なのでじっくりと復習していただきたい.



12月5日 第10回目 純物質と溶液系の化学ポテンシャル (69名出席) 配付資料 解答例

「化学」はいずこ

12月となり,本講義も10回を数えた.そろそろゴールが見えてきた(テストは1/23を予定している).今までの講義の対象は物理変化ばかりだった.化学熱力学の「化学」はこれから登場する.その前段階として気体や溶液中の注目する成分の化学ポテンシャルの記述は重要である.レポートの採点を終えたので,講評を記す.

5.4 おおかた正答を得ている.中にはH = G - TSから出発しているものもあるが,回りくどくなるだけである.基本は定義(H = U + PV)に戻ることである.

教訓:基本は定義に戻ること

5.5

(a)「SPTの関数とみなす」というところでSは状態関数であり,全微分できる」ことを思い出した学生は解けている.これらの方々は自信を持ってよい.上記の教訓を会得しているからである.

なお,提示された式の左辺と右辺が等しくなることを示した解答があったが,導出になっていない.導出は与えられた式を知らないという前提で示すものである.

(b) 圧力を変える,といっているので,等温過程と考えてよい.

(c) (b)が解けている人はほとんど正答を与えているが,数名,単位変換で間違っている.単位変換に慣れよう.

5.6 誤植があり,申し訳ない(誤0.914 g/mol→正0.914 g/ml).幸い誤植に起因する誤答は見られなかった.

この問題を解くためには,解答例に示したように順序通りに理詰めに考えるのが得策である.言い換えると論理的思考である.できなかった人はもう一度,各成分の質量→物質量→水の占める体積→全体積・・・ というように考えてみよ.

なお余談となるが,今回負の値を答えたものがあった.この問題の解答としてはもちろん誤答である.しかし「部分モル体積Vm,jが正になる」というのは必ずしも自明ではない.たとえば塩jを水溶液に添加するとイオンは溶媒和する.その結果全体積が減少する.式で書くと

Vm,j = (∂V/∂nj)T,P,nj' < 0

部分モル体積が負値となることがあるのである.



12月12日 第11回目 溶液の熱力学 (68名出席) 配付資料 解答例

「単位を整理しよう」

前回出題の講評.問6まで,おおむね正答を与えており,相転移のエントロピー変化の計算など,熱力学計算に慣れてきた様子がうかがえる.これはこれでよい.

さて,採点していて困ったことが「単位unit」である.解答を求められる物理量について数値のみを記したもの,間違った単位を付してあるものは減点した.単純な計算問題ではないので,数字さえ合っていればよい,というものではない.

明確な誤答の例:

間違いでないが,簡略化すべきもの:

教訓:数式には数値だけを代入するのではなく,単位を一緒に代入して計算する

教訓:複雑な単位はより単純化すべき

なお問6について圧力の単位を[atm]で答えたものがあった.正答は132 atmである.圧力による氷の融点の変化を利用するのがアイススケートである.エッジ(ブレード)を通して氷に圧力を加える.すると融点が下がり,氷は融解する.その結果エッジと氷の間に薄い水(液体)の膜が生じ,摩擦が減少する.エッジの大きさや形状にもよるが,仮に氷との接触面積を5×10−5 m2とすれば,70 kgのスケーターが0℃の氷の上に立ったとき氷の融点は-1℃となる.

解答に寄せられた学生のコメントに対する答え:

「dP/dTは負になるわけありませんよね」先入観を廃すべきである.確かに多くの物質についてdP/dTは正だが,水の場合,問題の図1に示すように傾きは負である.原因は水の異常性による.0℃での水と氷のモル体積は既に問の表1として示しておいた.1 molあたりの体積はどちらが大きいか考えてみよ.固体になると水素結合により水分子が整然と配列され,ダイヤモンドに似た構造をとる.その結果,体積が増える.

図 氷の結晶構図(disorderのため一つの酸素(赤)から水素(ピンク)が4本出ているように見える.点線は水素結合)

「ΔSを計算するに当たり式が多すぎてわからない」:エントロピーの定義に戻るべきである.また,この時氷に入り込む熱量はΔHで与えられることを思い出すべきだ(エンタルピーの定義に帰る).

教訓:基本は定義に戻ること.式に使われるな.



12月19日 第12回目 化学平衡の熱力学 (72名出席) 配付資料 解答例

「式に使われるな」

アナウンス:log, ln, expの計算のできる関数電卓を準備しておくこと.試験の解答に必要.

 年内の講義は本日が最後であった.後半の速い進度,毎回のレポートによくついてきてくれたと思う.とりあえずご苦労様.冬休みはプリントに記したように「よく遊びよく学べ」でがんばってほしい.さて,いつもの講評.

7.1 沸点上昇の問題.沸点上昇により蒸発熱を測ることができる.6割程度,正解を得ていた.解答例はモル分率x2をもとに計算するやり方を述べている.教科書の式(6-9)に数値を直接代入して求めている答案があったが,どれだけ式の中身を理解しているか?

教訓:操作的に式を使用(乱用)しない.

7.2 ラウールの法則(P1 = x1P10)だが,案外出来が悪かった.上で述べたように,操作的に式を適用しようとして失敗したケースが多い.

誤りのパターン:

  1. x1の代わりにx2を代入「P1 = x2P10」:14件
  2. なぜかΠV = nRTを使用(何で浸透圧?):3件
  3. NaClを溶解したとき,電離を考慮しなかった:6件
  4. 水(液体)1 lの量を計算するのに1/22.4としている(気体じゃないのに):2件

1番目の誤りについて,P1 = x2P10」とした時点で,おかしい,と気がつかなくてはならない.極端なケース,純溶媒ではどうか.x2 = 0なのでP1 = 0となる.矛盾は明らかである.ラウールの法則は溶媒に関しての法則ということを忘れてはならない.もう一度導出を思いだそう.

教訓:式の適用があやふやな場合,極端なケースを当てはめてみる.

なお溶質が揮発性で,希薄溶液の場合,モル分率x2とその分圧P2の間に比例関係が成立する.これをヘンリーの法則という.

P2 = x2K (K: ヘンリー定数)

KP20ではない.



1月9日 第13回目 平衡電気化学 (72名出席) 配付資料 解答例

「本気で学習せよ」

用事がびっしりで,再びコメント掲載が遅くなった.前回はメタンの分解に関する全7問の出題であったが,出来はよくない.パーフェクトは4097の方1人である.正答数3問以下の方々は特に頑張ってほしい.

正答数と人数

7問

1

6問

3

5問

7

4問

8

3問

17

2問

10

1問

16

0問

2

問1 エントロピーは状態量であるからこそ,このような計算が可能である.レポートを見たところ,皆,化学量論係数を忘れずにきちんと計算している.但し符号を間違えているケースが数例あった.前にも書いたが

Δ熱力学量 = Final−Initial

である.この場合{生成系}−{反応原系}である.

問2 ΔH0 = 74.81kJ/molのk(キロ)を見落としていることによる間違いが散見される.103を忘れずに!

問3 こちらはせっかく計算して出したΔG0 = 50.71 kJ/molのk(キロ)を見落として,K ≒ 1の誤答が目立つ.もったいない.なおKの値として1を越えるものも少なくなく,104, 108, 1017などというものもあった.メタンはそれほど不安定なのだろうか?常識を働かせてほしい.

問4 単純にΔGHTΔSから出発して問2,3同様に解くことができる.しかし,プリントの上部に書かれていたvan't Hoffの式を使用して解答している例が半分以上あった.かえって計算が面倒.何度も言うが,式に使われるな

問5 二次方程式が導かれるが,解の公式で断念しているものが多い.複雑な計算を課すのは出題者の意図ではない.ここでは近似を使う.高校で「酢酸の電離平衡」として学習したではないか.

問6 ここではエンタルピーの温度依存性がないものとしているので,エントロピー項が自由エネルギー,ひいては平衡定数,解離度にどう関わるかを尋ねている.

問7 圧力に関しては既に問5で解離度との関係を求めている.

ともかく,解答例を参照してしっかり復習してほしい.



1月16日 第14回目 レビュー 全体像の理解 配付資料

今日で授業を終了した.盛りだくさんの内容,毎回のレポート提出,自習,等々よくついてきてくれたと思う.感謝したい.多くを学習し理解したはずなので,熱力学についてかなり自信を持ってよい.熱力学の理解を,材料や反応の設計に役立ててほしい.

さて,いつもの講評.平衡電気化学からの出題.半数は標準電極電位の組み合わせから,ギブズ自由エネルギー変化,そして平衡定数を正しく計算していた.残る半数はほとんど,つぎの誤りをしている.

ΔG = -nFE

の式で,n = 2としてしまっている.この式は化学エネルギーと,酸化還元に関わる電子の移動を止める仕事とのバランスを表している.出題のケースではn = 1である.n = 2は説明に利用したダニエル電池について当てはまる.式は覚えるのではなく,理解するものだ.